ロバート・キャパの第二次世界大戦ヨーロッパ戦線の従軍記。
自らの周囲に起こったことだけを淡々として記述する様式は、ある意味、ヘミングウェイ以上にヘミングウェイ的だし(実はヘミングウェイも登場するのだ)、ハードボイルド以上にハードボイルドだ。
戦場の様なある種の悲劇につきあうとき、出来事だけを淡々と書いていくと、場合によっては無味乾燥になってしまったり、説教臭くなってしまったりするものだが、その轍に陥らずすんでのところでかわしているのは、キャパ独特のユーモアのなせる技。自らの悲恋すらもユーモアとリアリズムで淡々と活写してしまう。
またキャパの筆による登場人物が、これまた秀逸である。血なまぐさい戦場でもユーモアや豪傑ぶりを失わない人がたくさん登場していくる。これは時代のなせる業なのかもしれない。「物語」が「物語」として機能して、一人の人間が一人の人間として、ある意味、自立していた時代のなせる業。
物事をありのままにとらえるという写真家のなせる技なのか。技というより業なのかもしれない。多少はロマンチックにしている部分はあるのかもしれないが、淡々とした描写がむしろ読む者の想像力をかきたて、感情を揺さぶる。
特に、パリ入城のエピソードにはぐっとくる。涙でファインダーが見えないということろはこちらも涙を流しそうだった。
読み終わるには惜しい懐かしさが最後に残る。
インドシナで散ったキャパの冥福を心から祈りたい。