BearLog PART2

暇な中年の独り言です

ついにきた、発表会 その1

「お父さんは発表会どうしますか?」
と、師匠に聞かれたのが数カ月前のこと。あまりに、、、あまりに安易に、何も考えずに、
「是非出させて下さい」
と言ったものの、
「こんな初心者に弾ける曲なんてあるんでしょうか?」
という疑問が素直に口をついて出てきた(苦笑)。
そりゃそうだ。始めたのが今年の1月。発表会は5月5日。まだまだまっとうな音程もとれない。とれたとしたら、それは運が良かったときに限られる。
耳は怪しいし、左手も怪しいし、特に左手小指なんて痙攣しそうだし。ボウイングなんて怪しいを通り越して、まっとうにできないわけだ。震えるし。
「大人の初心者向けの曲もあるんですよ。ほら、伴奏がばんばんば〜ん、としているものとか……」
いやはや。私の師匠は心底優しい人なのである。
色々あろうが、何はともあれ娘が出るわけで、父親のコケンを賭けて、5月5日子供の日の発表会へ参加させて頂くことにしたのだった。
 

その翌週のレッスンで、先生から頂いた曲は、「シリアに寄せて」「ショートストーリー」の二曲。「シリアに寄せて」はしっとりとしたイギリスの民謡。あまり激しい左手の動きもなく、何とかなりそう。。。「ショートストーリー」はリヒター(あのバロックの大家リヒターとは違うよな)という人の作品で、ちゃかちゃかと左手が動く。師匠も二曲目は「やれればねえ」くらいの感じだったのではないかと察する。
それに加えて、合奏曲一曲。「海(あの有名なやつ)」のセカンド。


そもそも、ちゃんとした音楽教育を受けたわけではないから、楽譜を読むのに時間がかかるのだ。
一小節、一小節、というか一音一音確かめていかないと分からない。
まずはリズムを確認(一応ドラマーだからw)、たんたんた〜ん、たたたたたん、みたいなかんじ(笑)、その後ヴァイオリンを弾きながら音程を確認していく。え〜と、シだから、A線で1番の指で〜、みたいなかんじ。そりゃ時間かかるよな。
まさにカタツムリのようだ。
練習時間がなかなかとれない中年としては、この譜読みのまどろっこしさが悲しい。
初見でぱぱっと弾ける人が羨ましい。
朝、娘と一緒に練習をしながら(娘は「キラキラ星変奏曲」の簡単そうなやつを二つばかり)、何とか通して、曲?らしく聞こえるところまで仕上げて、翌週のレッスンの望む。
そもそも、「シリアに寄せて」のみ。「ショートストーリー」は当然、難しくて(特に左手がまったく思い通りにならず)、まったくてがつかない状態だった。恥ずかしながら。そして、何週かやっているうちに何とか「シリアに寄せて」が仕上がってきたので、師匠の方から「じゃあこちらはどうでしょう?」と言われ、「ショートストーリー」を弾いてみたのは意外と発表会が近付いてきてからだったような気がする。
この曲、最後の方で、ラシドレミファソラソファミレドシラソラ、という簡単そうに見えるスケールが出てくる(ちなみにイ長調)。


しかし。
これが思った通りに弾けない。特にA線を押さえる4番指(左手小指)、D線を押さえる4番指が如何ともし難い(笑)。しかも左手に気を取られていると、ボウイングが疎かになる。発表会が終わってみて気付いたのだが、左手は概ね押さえられるようになっていたのだ。しかし、ボウイングに問題があったので、綺麗なスケールにならなかったというのがオチ。これは大反省。
それはともかく。
まあひたすら練習するしかないのだった。暇があれば左手をちょこちょこ動かしながら、スケールのイメージトレーニングをすることにした。効果があるのかどうかは全く定かではないのだが……。


娘も決して上手ではないが、しかし、彼女にはありあまる「未来」というものがある。私のような中年には、もはやその「未来」もあまりないわけだ(笑)。
まあ仕方ない。それが運命というものだ。
それはともかく、「構え」から始まり、ボウイング、はては呼吸まで(そもそも楽器を演奏することと呼吸が密接に関連していなどとは想像もしていなかった)、毎週のように師匠から問題を指摘され、それを少しずつ潰していくというプロセスを継続するしかないわけだ。一つの曲をこんなに真面目に、かつ何度も弾いたことは、ちょこっとだけやっていたバンドのライブでやる曲くらいしかない。
しかも、それってピストルズとかPILとかRCだし、自分はドラムだったから、最低限リズムをキープして、走りそうなメンバーを何とか思いとどまらせる、くらいのかんじで、難しいオカズ入れるとか、そういう野望もなく安定志向でやっていたので、難易度で言えば極めて低い。
そもそも、それ以上と言うか遥か上の難易度だ、どう考えてみても。
練習を根を詰めてやっているうちに、こっちも色々と奏法上の疑問が出てくる。「そもそも弓が震えるのはなんで?」「音の出だしが綺麗に出ないのは?」「長い音を弾くと隣に弦にひっかかってしまうのはなぜ?」等々。
そういうのを折を見て聞いていくと、きっちりと理由を教えて下さる。ただ「弓の震え」については、きっぱりと「とまりません」と言われた。
そういうものなのだそうだ。あとは経験、ということなのだな。


しかし、それはともかく、発表会という目標があるということで、毎日の練習、そして毎週のレッスンにも否が応でも気合がはいる。
だって、それなりに立派に弾きたいではありませんか。できればいいところを見せたい(聴かせたい)し。
実力には不相応な欲も出る。この「欲」が、ある意味で上達を助けるんだろうなあと思ったりもする。まだまだできるのではないか?と思い、かつ伊福部先生も武満先生もほぼ独学じゃないか!などと思ったりして、そこから派生して、iTune Storeで「ゴジラ」のサントラを落としてきて、聞き入ったり、「ノヴェンバー・ステップス」を聞いてみたり。あげくの果てには、娘に「ゴジラ」を聞かせて、「ここでは自衛隊の戦車が出てくるんだ」とか講釈してみたり。
娘からは、「お父さんもドレス買ったら?」等と意味不明の発言が出たり……。その尻馬にのって、「そうだよな、ドレスは着ないけど、発表会用にスーツを新調するか」と言って、妻に睨まれるわ……。
発表会に関連するランダムウォークは果てしなく続くわけである。


閑話休題
自分としても、これだけ集中して物事に取り組んだことは随分と久しぶりなのではないだろうか(勿論、仕事以外でということです)。
出張中で練習できないときは、移動の最中や就寝前に、楽譜を思い出してイメージトレーニング。
ただ、イメージトレーニングをしているうちに、「そもそも楽譜がどうなっているんだっけ?」となり、楽譜を思い出そうとすると、「そもそも指の動きは?」となり、楽譜がきちんと自分の身体イメージにリンクしているわけではないということが露呈、自らの修練不足を嘆くはめになったりも、した。
とはいえ、遊びこそ真面目にやらないと意味が無い。


そんなこんなするうちに、伴奏合わせの日になった。