BearLog PART2

暇な中年の独り言です

傷だらけの天使

傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを

傷だらけの天使 魔都に天使のハンマーを

 ついさっき読了。
 こういうのを読むと、自分の心の中のチンピラ心が燃え上がっちゃう。テレビシリーズの引用だけではなく、矢作俊彦らしい遊び心いっぱいの引用やモチーフに彩られたエンタテインメントで、文句なしに楽しめる。前にも書いたが、色々障害があるかもしれないが、是非映画化したい。しかも、我が社で笑(もちろんそんな権限は私にはないが)
 ということで、気持ちよく感想文を垂れ流す分にはいいのだが、一抹の違和感がある。それは何かと言うと、ある種の「既視感」だ。ストーリーにしても、時事的な問題をうまく入れ込みながら、読者の興味を上手に惹きつけるし、細かいエピソードについても、エンタテインメントの「テクニック」としては、今の日本では最上級のものだと思う。しかし、そのどれもが「既視感」を伴う。バーチャルな世界ではなくリアルを体験しろよと主人公が呟くところとか(勿論実際の台詞はそういったものではない)、澪(これで「れい」と読ませるのは、古くからの矢作読者は思わずにやりとするところだろう)という少女の存在、そのどれもが矢作ワールドに典型的なものだから、古くからの読者には、「既視感」がどうしても伴う。それはもはや伝統芸能的なものであり、仕方ないのだが、ここ数年の矢作作品のような強烈なアバンギャルドさはまったくもって影を潜めてしまった。そこだけが何となく淋しい。
 とはいえ、作者本人が本当に楽しみながら書いているのがよく分かる。その力の抜け方と書く喜びが行間から沸き上がってきて、その行間の香りが、私にとっては何とも言えず心地よい。
 ストーリーだって斬新とは言えないし、エディプスの三角形的世界への回帰を拒んだ結末といい、全ては矢作ワールドのお約束。そのお約束は「既視感」満載ではあるが、でもそれを補ってあまりあるほど、矢作の筆は流暢に快速調で流れていく。だからこそ、本書については、その感想文をだらだら書くことさえも快感になってしまうのだ。
 彼のキーボードを叩く指の軽さを思いつつ、その軽妙さに浸るのが、この作品の正しい鑑賞法だと思う。それ以上でも以下でもない。
 勿論、私は大好きではあるが(笑)