BearLog PART2

暇な中年の独り言です

ついにきた、発表会 その2

話が思い切り前後するが、バイオリンを弾くときは、呼吸にも気をつけなければならないのだ。
師匠が、まだ教えていなかったのだけどと前置きしながら、おっしゃるには、「ダウンボーの時は均等に息を吐くんです。アップボーの時は弓が根本に行くに連れて、大きく息を吸うんです」とのことである。
確かに言われた通りに、弓の動きに呼吸を合わせてみると、思った以上に弓の軌道が安定することが分かった。なるほどなあ。自分自身の一挙手一投足すべてが、楽器の音に関連してくるというわけなのだ。あまりに面白過ぎて、感動してしまう。
しかし、全部の動作をきちんと間違えることなく同時にできるわけでは、勿論ない。ひとつの動作に意識が集中すれば、他の動作がうまくいかなくなる。少しずつオートマティックにできることを増やしていくしかなく、かつ、そうなるためにはひたすら練習をしなければならないということなのだ。無意識のうちにすべてをパーフェクトに動かす……まだまだ道のりは遠そうだ……。

仕事柄、マン・マシンの間のユーザーインターフェースについては、色々と見てきたし、考えることは多かった。デジタル機器のインターフェースは所詮、視覚をベースとしたもので、デザイン上の差別化や何らかのオリジナリティは諸々あれども、基本的には、見て、ちょこっと触れて……以上、である。
しかし、アナログの極みとも言えるバイオリンのユーザーインターフェースは、パソコンやガジェット類とは桁違いの奥深さだ。タッチパネルでアイコンをぴぴっと触れるだけではない。呼吸も、そして視覚や聴覚以外の感覚も総動員して演奏しなければならないし、そうすることによってしか、輝かしい音が出ないし、美しく響かない。これだけ、自分の身体の使い方を必死に考えること、現代人にとってはほとんどないと言ってよい。
つまりは、バイオリン演奏はある意味で完全にスポーツの世界と同じようなところに行き着くわけである。唯一違うとすれば、競う相手が明確にいないということくらい(と言っても、コンクールは別物か)。

身体感覚を使うということ、これはある意味、究極のボケ防止と言えないだろうか。

そうそう。
またまた話が強烈に前後するのだが、「ナンバ」というものがある。師匠のところで、師匠の生徒以外も参加可能な「ナンバ」のオープンな講習会が、3ヶ月に1回くらいある。
その名もずばり、「バイオリン骨体操」。
そこでは、美貌のバイオリニストで、ナンバのインストラクターでもある方を講師としてお迎えして、「骨体操」を実際に学んでいく。運良く、発表会の前に「骨体操」講習会があり、これまた私はいさんで参加したわけである。
これがまた非常に勉強になった。ナンバでは、人間の身体をいくつかの直方体の固まりとして捉え、「捻らず、うねらず、踏ん張らず」ということで、上手に身体を使っていくことが要諦となっている。この講習会では、いくつかの体操を通じて、自分の「骨」を意識して、自分の身体を上手に使っていけるようにするための体操を教えていただくわけである。
体操自体については、ここでは割愛させて頂くが、非常に面白いものだった。ナンバの仔細については、こちらをご覧下さい。
http://nanba-walk.com/

その講習会の席上で、各人の構えを見て頂き、音を聞いて頂く機会があった。習い始めたばかりなので……と躊躇していたところ、師匠の「せっかくだから見ていただいたらどうですか」との一言に背中を押され、おずおずと「シリアに寄せて」を弾いてみた。
「素直な音ですね」
と初心者としては望外に嬉しい一言を頂戴した。それにかぶせて師匠曰く、
「そうですよ、素直な方ですから」。

そうか。わたくし、素直だったのですね〜(我ながら感動)。
四十をいくつも超え、五十が近くなっている今日この頃、多分ここ四十年くらい聞いたことのない「素直」という言葉……。想像もしていなかった言葉だけに、妙にくすぐったく嬉しいものである(とはいえ、今でこそ似ても焼いても喰えない中年になってしまったが、幼稚園から小学校低学年の頃は「素直な子供」であったのは多分事実だ。私の幼少期のアルバムでは、娘そっくりの顔つきのあどけな〜い当時の私が確認できる)。
「左手」ということだけではなく、先ずは構えについてのアドバイスを頂戴する。
「まず、全身の力を抜いて。海と山、どっちが好きですか?」
「強いて言うと海です」
「じゃあ、ここがビーチだと想像して下さい。素敵なビーチに一人でいる。リラックスして、楽器をガン見しないで、遠くの方に視線を持ってきて。ビーチにいる自分を客観的に眺めているイメージで……」
というようなアドバイスを頂いた。
「遠くに音を届けるように……」
イメージは、何となくではあるが、分かる。しかし、そのイメージを自分の体でどう具現化していったらいいのかが、いまひとつ分からない。そんなこんなでちょろっと弾いてみる。
「今度はちょっと遊んでみよう」
次に出た指示は、バイオリンを通常のように顎で押さえずにちょんと左腕の上に載せて、弓ではなくバイオリンを動かして音を出してみるということだった。
「ヘタでいいので、それで音を出してみよう」
確かに綺麗に音はでないけど、何とか音を出すには出せる。弓ではなく、バイオリン本体を動かすことで、逆に、バイオリン自体がどういう状態であれば、弓が綺麗に当たるのか、ということが何となく会得できるようなかんじもしてきたのだった。
といったかんじで、構えのアドバイスを貰う。何となく「う〜ん、そうかあ」というかんじで、言葉で認識するということでしか確認できないし、自信も持てない中年の私としては「身体感覚の記憶」ということについてはかなり不如意ではあるが、何となく分かったような気になった。

バイオリンを始めてから、自分の身体の色々なところに目が向くようになってきた。面白いことだ。

ということで、長くなったので、一旦切りますが、伴奏合わせや発表会の当日の話は、「その3」にて(の予定)
ごきげんよう


つづく(筈)