BearLog PART2

暇な中年の独り言です

 ツールド千葉 第三日目

 いよいよ三日目。
 南海荘の朝食を食べる。バイキングである。本当は米の飯がいいのだと思うけれども、どういうわけかそういう気分にならず、パンだのシリアルだのを食べる。そう言えば、私は朝食でいつもシリアルを食べている。しかもカルビーフルーツグラノーラ。どういうわけかこれが好きで、毎日食べている。閑話休題
 例によって、荷物を持って、スタート地点(昨日のゴール地点)まで自転車をひいて行く。今回はどうやら速度順に出発するらしい。時速25kmチームはもう人がたくさんいたようで、私たちはその後の、多分時速20kmチームへの編入を余儀なくされる。今日は割と厳格な速度管理が行われるようである。昨日見た救急車から想像されるように、落車が出てしまったせいなのかどうかは分からないが、走りながら友人と「速度管理厳しくなったのは落車でも出たんじゃないか……」なんていう話をする。
 二度あることは三度あるというので、もはや換えのチューブを持っていない私はちょっと神経質になっていたのだが、どうやら大丈夫そうである。海岸通りを一列になって走る集団。風はそこそこ強いが、とても気持ちいい。信号のない道をゆっくりとしたペースでひた走る。平砂浦も通る、そう言えば、平砂浦って、亡くなった母方の祖母と一緒に来て以来だ。もう二十年前くらいのことだろうか。ちょっと思い出に浸る。まあ、思い出に浸れるくらいゆっくりしたペースだったということだ。
 そうこうするうちに最初のエイドステーション「道の駅 鄙の里」へ。ここではゴロー氏と一緒に、のんびり無料の「足湯」に浸かってしまった。この足湯が最高だった。というのも、長い時間自転車で走っていると、多分私だけではないと思うのだが、足の親指がしびれて痛くなってくる。今日も今日とて少し痛みを感じていたのだが、この足湯でその痛みがすっかり完治してしまったからだ。足湯最高……なんてゴロー氏とやっていたら、他の友人三人はそそくさと出発してしまったらしく、私たちは取り残されていた(苦笑) まあ、仕方ない。
 二人で、丘陵地帯へ突入。坂登り開始。先導してくれている指導員の方の許可をもらって、アタックをかけてみた。いい坂だった。ゴロー氏は余裕で私の後をついてくる。途中で先頭交代してもらったのだが、ゴロー氏のペースについていくのがやっとだった。登り切ると下り開始。これも気持ちいい。ってそうこうするうちに、次のエイドステーションに到着。小学校だった、と思う。ここで仲間三人と再会。ゴロー氏と私はほとんど休まずに、彼らと一緒に出発することにした。
 しばらく行くと、房総スカイラインへ入り、だらだらとした上り坂になる。S氏とゴロー氏がアタックをかけたので、私も一緒についていってみたが、途中でちぎられた。やはり、坂になると彼らは強い。途中、先に出発した人々や途中で私のことを抜いていったトライアスリートっぽい外人(本当によたよた走っていた)とかも抜く。
 しかし、坂はきつい。きついけど、登り始めると止められない。ペダルを回す回す回す、ただそれだけである。心拍数は上がり、足に乳酸がたまり始めるのも感じる。自分の身体が自分のものでなくなってしまったかのような感覚……でも、坂は麻薬だ。止められない。
 ひーひー言いながらも、ゴロー氏、S氏に続いて、昼食休憩ポイントである「道の駅 ふれあいパーク・きみつ」に到着。どういうわけか腹痛に悩まされ、三回もトイレにいくことになったが、何とか回復。
 ここで、ちょうど妻からのメールで、北朝鮮による核実験の実施を知った。むむむ、というかんじである。もはや日本には安全保障という四文字熟語は存在しないのだなあ、しかし、おれ、こんなところで自転車に乗っていて、本当に平和ぼけだなあ……などと思う。友人はソフトクリームを食べにいった。広い芝生の東屋で、北朝鮮の核に怯えながらもつかの間の幸福感に酔う。何と現代人はねじれていることか。
 昼食終了後、出発したが、ここからもまた登りである。何人かを抜き、何人かに抜かれながら、上る上る。そしてやっと下りに入る。登りで若干おいてけぼりにした友人連中に下りで追いつかれ、抜かれる。クマおたくはあまり下りが好きではないのだ……。下りきると市街地。市街地に入った頃にはややちぎれ気味だったが信号で追いつく。
 最後のかずさアカデミアパークにかけて、また登り。最後の登りだ。足にたまった乳酸がけっこう痛い。しかし、こがなければ、当たり前の話だが、自転車は進まない。だから踏む。回す……。途中で友人を抜きつつ、上る。イキが上がる。それでも上る。
「この坂で終わりだよ〜、後は下りだから〜」
 という沿道の声援に背中を押される。その声援を半信半疑で聞きながらも、そうであればいいと願う。まだ登り。まだか?! 急に視界が開ける。下りだ。もうここまで上ればよいのだと思うと、ペダルを回す脚にも力が蘇る。人間というのは本当に現金な動物だ(笑)
 下り坂、一人旅。踏みまくって時速で言うと50kmくらいまで出した。快感である。訳もなく充実感が身体中にこみ上げてくる。このままでは涙が出てしまうかもしれない……とも思った。まあ馬鹿である。
 もう完走は目の前である。
 いつの間にか友人二人も追いついてきていた。やはり私は下りは遅いようだ(笑) 左に曲がる。右手にゴールが見える。

 ゴールする。

 三日間が終わった。自転車に乗るだけの三日間。なんて幸せな三日間だったろう。一日の大半をサドルの上で過ごし、食事をして、寝るだけ。
 何も生まない三日間だったが、これほど愛しい三日間は生まれて初めてだった。もう最高の気分だった。

 来年も出ようと思った。