- 作者: 石弘光
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/01/25
- メディア: 単行本
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大学のとき、教養課程で行われたマクロ経済学のゼミでお世話になった石先生の税調時代の論文を集めたもの。税調と政治の間の苦闘の産物といえば産物。
どの論文も基本的な論旨は同じ。
「歳出削減だけでは足りないから、広く、薄く課税する形にもっていかないといけない」
「税負担と公益享受の関係を考え直そう。低い税負担で、高い公益享受はありえない」
まさにその通り。
とはいうものの、公共投資の無駄などがセンセーショナルに報道されてしまうと「広く、薄く課税する」などという主張は、むしろ民意を逆撫でしてしまうのも事実である。
本書においては、歳出削減の限界については執拗に触れられているが、現段階での歳出の無駄についての記述はほとんどなく、一般庶民からすれば、「??? けっきょく増税か?」と思ってしまうことは明らかで、論理的整合性を問う前に、感情的に「No」のプラカードが出てくるだろう。
こういう議論をするときは、いい悪いは別として、一度「自分の立場を棚上げ」するという思考実験が必ず必要になる。自分の立場を棚上げしないと、絶対に「論理」よりも「感情」が先にたってしまうから、きちんとした議論ができなくなってしまうからだ。
今の日本も、「自分の立場を棚上げ」することをしないから、話が錯綜してしまう。おまけにマスコミは、庶民にウケのいい「役人はひどい、無駄な支出がこんなにあるぞ」と煽り、さらに「こんなに負担が増えますよ」と耳打ちする。しかも、公共サービスの水準を落とすことについては「見殺しにする気か?!」と怒ってみたりする。個人的な立場を一度「棚上げ」しないと、こういう生臭い話は議論できないから、そんな扇情的なことを世の中に吐き出してはいかんと思うのだ。マスコミの責任はもっと問われていいのではないかと思う。
これじゃあ、庶民が主体的に税負担について議論することができなくなってしまう。そういう意味でも、本書は、そういう娯楽テイストがまったくないので、庶民感覚からすると「色々言ってるけど、結局は増税かい?」と読めてしまう。ま、増税するかどうかも最終的には国民の判断なのだが、主体的に政治と対峙する気のない人からすれば、苦い薬でしかない。
私はいくつか賛同しかねる部分もあるが、概ね、石先生の議論は筋の通ったものだとは思う。
人は見たい現実しか見ない。
本書は見たくない現実を書いている。