BearLog PART2

暇な中年の独り言です

親父を恨むぞ

 一昨日くらいに、職場で他愛のない話をしていて、そのときに思い出したことである。
 基本的には、私は自分をこの世に送り込んでくれて、何不自由ない暮らしをさせてくれた親父に感謝をしている者ではあるが、ひとつだけ彼に対して、未だに根に持っていることがある。その話をこれからしようと思う。面白いかもしれないし、面白くないかもしれない。でも、私にとっては非常に重要なことなんである。

 小学校4年か5年の頃だったと思う。学校で、adidasのウィンドブレーカーがすごく流行っていた時期があった。当然、今のロゴになる前で、トレフォイルに三本線がきりりと入るアレである。男子クラスメートのかなりの数がそのウィンドブレーカーを持っていて、当然のことながら、私も欲しくなった。自分の小遣いでは買えないので、ダメ元で母親に頼み込んだわけだ。すると、案外あっさり買ってくれた。きっと何らかの理由で機嫌が良かったのだと思う。本当にあっさり買ってくれた。
 色は濃紺。我ながらカッコよかった。
 私は喜び勇んで、毎日のように学校に着て行った。子供心にうれしかったのだ。

 ある日、着ようと思って、ハンガーにかけてあった自慢のadidasのウィンドブレーカーを見てみると、大変なことに気が付いた。

 adidas自慢の三本線の、一番上には「住所」、二番目には「電話番号」、三番目には私の「名前」がデカデカと書いてあるではないか! 私は一瞬、何が起こっているのか分からないくらいの衝撃に襲われた。だって、adidasだぜ、三本線はあくまでも真っ白に光り輝いていなければならない筈。
 しかし、そこには住所と電話番号と、嫌味のように、私の名前までもご丁寧にマジックでしっかりと記入されていた。
 私は怒髪天を衝く勢いで、母親にくってかかった。
「何?! こんなところに名前書いてあるよ。カッコ悪いじゃないか? お母さんが書いたの?!」
 母は、あっさり、
「私じゃないわよ。お父さんでしょ。聞いてみなさいよ」
 と言い、挙げ句の果てには、
「カッコ悪かったら着なければいいじゃない。弟にでも上げなさいよ」
 と言いたい放題。私は、踵を返し、父のところに行った。
「お父さん、ぼくのウィンドブレーカーに、名前だの住所だの、書いた?! カッコ悪くて着れないよ」
 と、涙ながらに訴えた。
 父は悪びれもせず、
「ん? あそこは名前書くところじゃないのかい? ちょうど三本もあるから、名前、住所、電話番号、と3つ書くのにちょうどいいじゃないか。なかなか洒落てると思ってさ、書いといてやったよ。これで、他の子と取り間違えなくてすむだろう?」
 と、ニコニコしながら言った。私は呆然とした。

 ということで、私はこの一件だけは、未だに恨んでいる。恨んでも恨みきれない。